<詩>理解とはなんだろうか。〜彼と彼女のこれまでとこれから

 

理解されたいと言葉を重ねるうちに
随分と遠くまで来てしまった
 
もし、そこを行く人
私を理解してくれませんか
 
 
青年の懇願に
買い物帰りの婦人は颯爽と返す
 
「あら、あなた
 理解とは時間のことですよ
 
 私とあなたが隣合って
 穏やかに過ごした時間のことですよ」
 
それならば
会ったばかりの人に理解されないのも仕方がないと
こわばった顔で青年は歩く
 
 
 
 
あの、優しそうなあなた
私を理解してくれませんか
 
うなだれた老紳士に声を掛けると
老紳士は座りこんだまま顔を上げ
首を振った
 
「ああ……、君。理解とは
 悲しみの深さのことだよ
 君より悲しい思いをした人ならば
 君を理解することができるだろう」
 
それならば
僕を理解できる人は、世界にうんと少ないと
声もなく涙を流して
青年は歩く
 
 
 
青年は、もがいてもがいて
わかってほしいと道行く人に訴え続け
やがて出会った
 
優しく微笑み
自分のことを語ろうとしない人に出会った
 
 
うなずくばかりの彼女に
とうとうと自分のことを語るうち
青年は
なぜだろうと
思った
 
 
あなたは僕の話に微笑むだけで
なんの意見も言わないけれど
 
僕の悲惨な経験に
大変だったねとも
言わないけれど
 
こんなにも
僕の話をわかってくれる気がするのは
どうしてですか
 
 
ねえ、あなたのこれまでの人生に
なにがありましたか
 
僕よりもずっと
つらいことがありましたか
 
 
あなたはなぜ
僕の話を聞くことができるのですか
 
どうして
そんなに優しい目ができるのですか
 
 
 
ふたりは隣り合って過ごし
ぽつりぽつりと言葉を交わした
 
 
幾度も季節がめぐり
野に花が咲いた
 
ささやかな花束を
彼女に差し出して
青年は言った
 
 
「ねぇ、あなた
 僕はあなたが大事だよ
 
 あなたは自分を語らないから
 わからないところもたくさんあるけれど
 
 あなたが言葉にしない部分も、なんだか優しい気配がするんだよ
 
 
 理解とは
 理解とは
 あなたを知りたいと思うことだったよ
 
 
 聞いてもらうことではなかった
 
 あなたを知りたいと思って初めて
 
 どこまでもひとりきりの世界を
 出られたよ」
 
 
彼女は嬉しそうに微笑んで
受け取った花束を
窓辺に飾った
 
 
遠くで鳥が鳴いていた
野に一面の花が咲いていた
 
相変わらずうまく言葉は出ないけれど
彼との暮らしを
幸せだと思った